トップページへ

会長からのメッセージ(9)
松野はざま*と大日本山林会
1.はじめに
  松野はざま墓地修復竣工記念式典が去る4月8日に執り行われたことが「山林」No.1488(平成20年5月号)の裏表紙に記事として掲載されています。森林総合研究所(林業試験場)と東京大学林学科の関係者が立ち上げた「松野はざま墓地修復基金」に寄せられた募金によって、東京都青山霊園の外人墓地にある松野はざま先生の墓地が修復された話です。山林会は、この「基金」の事務局を務め、この墓地修復事業に協力しました。それは、大日本山林会の創設とその後の基盤づくりに貢献して頂いた松野はざま先生の恩に少しでも報いることが出来ればとの思いから事務局を引き受けたことからです。ここでは、松野はざまと大日本山林会との係わりについて「大日本山林会会報」(後に、「山林」と改称)をもとにまとめてみました。

*=




青山霊園・外人墓地にある
松野はざま墓地
修復以前の墓地の様子



修復以前の墓地の様子
(ヘンスはサビ、墓石が傾いている)




修復成った墓地の様子(ヘンスを取り除く)


松野はざま、59歳
(明治39年)
2.松野はざまのこと
  松野はざまが日本近代林学(技術林政、林業研究、林業教育)の先駆者であり「我が国林学の鼻祖にして明治林業の創始者」と讃えられていることはご存じと思います。(「山林」(平成17年10月号)、「林業技術」(平成16年7月号))
 明治3年に独逸に留学し、ベルリン近郊にあるエーベルスワルデ高等森林学校で日本人で初めて林学を学び、明治8年に帰国した後、地理寮山林課に就職し、ドイツ林学を我が国に普及することに尽力しました。官林調査や官行伐採などの事業を行ってゆくなかで、林業技術者不足を痛感するようになり、人材を廟堂に得て以て知識を民間に広めることが焦眉の急であるとの宿志を抱き、根気よくいろいろな活動を展開しました。 一つは、森林学校を創立し学徒を全国に募るための山林学校官設の論を展開し、これが樹木試験場の創設(明治10年)、東京山林学校の設立(明治15年、初代の校長、東京大学林学科の前身)、そして林業試験所の設立(明治38年、初代の所長、林業試験場、森林総合研究所の前身)として実を結ぶことになります。二つ目は、山林局の局長以下局員への毎月数次の林業講話の開催や全国の視察旅行の折に諸地方で県庁職員や民間有志者への森林上の講話の開催による普及啓蒙活動を積極的に推進したことです。さらに、もう一つは、以下の大日本山林会の創設に係わる活躍です。
3.大日本山林会の設立への関与
 外部の人民を鼓舞作興し以て輿論を喚起する必要性を痛感した先生は、山林に関する科学的研究の必須を唱道して松野先生外3名で明治12年12月に「山林学協会」を設立した。この学協会を活用して、最初は牛込、後には深川木場を会場に、都下の有志、主に木材商人等を対象として毎週一回期のペースで林業講話を開き、これを新聞雑誌に掲載する等百方尽力しました。農商務省が設置され山林局がその所轄に移り、山林局長に武井守正が来任するに及び、先生は山林学協会の拡張の必要なることを説き、武井局長の賛意のもとで拡張の方法を講究します。その結果、「大日本山林会」と改称し、会員を全国的に募集し、親王家を戴き会頭とする組織とする議に一決しました。先生は、独逸留学の折随行した北白川宮殿下に総裁奉戴のことをお願いしたところ、既に大日本農会や地学協会の会頭になられており大日本山林会の会頭を引き受けることは甚だ多情に失するの嫌い有るので、伏見宮貞愛親王にお願いしたらどうかとのお言葉に加え、伏見宮親王への御親書も添えて頂きました。そこで伏見宮親王に拝謁し懇請したところ、親王には快諾して頂くことができました。そこで、各親王、大臣、参議、その他の勅任官及び各府県知事等に乞うて名誉会員と為し、また、年会費金3円を出すものを特別会員、同金1円20銭を出すものを通常会員と定め、普く全国に会員を募集しました。各府県知事が地方官会議に上京する機会を捉えて本会趣意書を各県に配布しその地方の有志を勧誘することを府県知事に委託したところ多数の会員を得ることができました。
 その結果、明治15年1月21日の東京都芝公園内紅葉館において、農商務大臣品川弥二郎を創立委員長として大日本山林会創立総会が開かれました。この総会で選出された役員、議員は次の通りです。
 会頭:伏見宮貞愛親王殿下、
 幹事長:品川弥二郎内務少輔、
 幹事:武井守正山林局長、松野はざま農商務権少書記官、外4名
 常置議員:20名
 (なお、松野先生には明治25年まで幹事として務めて頂いている。)
 名誉会員:伏見宮、有栖川宮、東伏見宮、北白川宮、山階宮、華頂宮、
      山懸有朋、伊藤博文、西郷従道、松方正義、品川弥二郎等57名
 特別会員:武井守正、桜井勉、松野はざま等145名 
 通常会員:144名
 寄付金:伏見宮親王300円、品川弥二郎150円、武井守正外1名100円、
      松野はざま外8名50円、2名30円、3名20円、3名10円

4.大日本山林会活動への貢献
 山林会創立とともに会則を以て「大日本山林会会報」を発行することと、毎月一回の定例小集会、年一回の大集会が決まり、当初から極めて熱心な民間団体としての活動を開始し多くの成果をあげることになります。
 小集会は在京の会員を集めて、山林の保護繁殖と林業の改良進歩に関して意見の交換を行い、その事績を録して会報に掲載し会員に頒布しました。会報は明治15年1月以来ほぼ毎月一回刊行してきました。小集会では幹事長が議事を進行し、毎月事前に定められた課題について話題提供が行われ、それに対する質疑応答・意見交換が行われるという形で進行し、時間が余れば、他の話題が取り上げられることもありました。小集会に関する記事は大日本山林会会報第2号(明治15年3月号)から掲載されています。 森林・林業に関する幅広い課題が取り上げられ、全国に向けての活発な情報発信が行われ出したことがわかります。
 松野先生は当初からこの小集会に参加し、質疑応答では常に回答者として、特に初年度においては先生の発言が頻繁に掲載され紙面を賑わしています。その後は発言は少なくなっていきますが、度々、幹事長不在の場合は、幹事長代理としてこの小集会の議長役を努めるなど、大日本山林会の発展とその方向付けに大変努力して頂いたと思われます。

5.おわりに
 山林会では創立10周年を記念して当会に対する功績特に顕著なる者を表彰するための「大日本山林会有功章制度」を明治32年に制定しました。その年7月に奈良市で開催された総会(「大集会」を明治25年より「総会」と改め、明治32年より地方で行うこととした)の折に、松野先生には、初代の幹事長品川弥二郎氏とともに最初の有功金賞を会頭伏見宮殿下から親しく御手つから授与させて頂いた。山林会の設立や設立後の会の基盤づくりや運営についての松野先生の長年にわたる多大な貢献を称えた顕彰であったわけです。
 大日本山林会は今年(平成20年)で創立126年になりますが、以上のように松野先生にはその設立から活動の方向付けまで大恩を受けたことになるわけで、今回山林会が「松野はざま墓地修復基金」の事務局を引き受けさせて頂きお役に立つことが出来たことはそのご恩に少しでも報えられたと喜んでいる次第です。
 先生は、継嗣がなく松野家が自分一代で潰れることへの後輩達の心配に対して、「余には林学なる子がある。これが余の志を継いでくれるから、松野の家名は永久に耐えることは無かろうと思えば、愉悦怡楽の極みである」と云われていたといいます。今回、森林総合研究所(林業試験場)関係者、東京大学関係者、林業団体関係者の皆さんのご協力によって墓地修復を達成できたことは、先生が生前に確信していた愉悦怡楽の一つの証を示すことができたものと考えれば愉快なことではないでしょうか。
 なお、松野先生の森林教育及び林務の要路に当たられた功労を讃えるため松野先生の記念碑と松野記念林が東京帝国大学清澄演習林内に明治42年設置されましたが、「故松野はざま先生功績紀念醵金」を全国に呼びかけたのは第2代目林業試験所長の白澤保美と山林会幹事の川瀬善太郎(第7代大日本山林会会長、大正9年〜昭和7年)を中心とした発起人会であり、記念碑の裏面文を川瀬善太郎が撰しています。(平成20年5月4日)
2008年5月 大貫 仁人




会長からのメッセージ  バックナンバー 
(1)ご挨拶
(2)水のかたち
(3)平成19年度現地研修会報告(1)
(4)平成19年度現地研修会報告(2)
(5)平成19年度現地研修会報告(3)
(6)平成19年度現地研修会報告(4)
(7)平成19年度伊勢神宮新穀感謝祭に参加して
(8)林業用ニューマシン
(10)長伐期林業と外山三郎先生
(11)平成20年度現地研修会報告(1)
(12)平成20年度現地研修会報告(2)
(13)平成20年度現地研修会報告(3)
(14)平成20年度現地研修会報告(4)
(15)平成20年度現地研修会報告(5)
(16)平成20年度現地研修会報告(6)
(17)『明治林業逸史』の復刻版刊行について
(18)当会の「新公益法人制度」への対応について
(19)平成21年度現地研修会報告(1)
(20)平成21年度現地研修会報告(2)
(21)平成21年度現地研修会報告(3)
(22)平成21年度現地研修会報告(4)
(23)平成21年度現地研修会報告(5)
(24)平成21年度現地研修会報告(6)
(25)「林業経営『創意工夫』表彰行事」のスタートにあたり
(26)「公益社団法人大日本山林会」への移行登記完了
(27)「公益社団法人・大日本山林会」の設立総会と第一回参与会議報告
(28)平成22年度「林業経営“創意工夫”賞」決まる
(29)平成23年度参与会議と役員改選(山林会を辞するにあたって)

バックナンバー(前会長)