2005年1月21日
小林 富士雄
昨年末の新穀感謝祭は第50回に当たり、盛大に行われました。行事は11月16日―12月11日となっていますが、その間の一日に農事功労者表彰式が行われます。当会は林業関係の功労者の推薦母体になっており、原則として毎年お一人を推薦して参りました。今回は巾崎理一氏(長野県)を推薦し、巾崎氏は12月6日神宮会館での式典で受賞されました。なお最近数年の林業関係の受賞者は別表の通りです。
今回は表彰式招待の機会を利用して、かねて念願の伊勢神宮備林を見学し感銘を受けました。偶々原稿依頼されていた日本緑化センター「グリーンエージ」新年号にこの時の感想を原稿にしました。以下は平成17年1月号「新春随想」をそのまま掲載させて貰ったものです。これにその折に撮影した写真を貼付します。
グリーンエイジ2005年1月号 神宮の御杣山を訪ねて
小林 富士雄
御杣山(みそまやま)とは、伊勢神宮が20年毎に全社殿を新しく造営する「式年遷宮」のための用材を伐り出す山のことである。式年遷宮の制は天武天皇の御代に定められ約1300年の歴史がある。この制度は室町末の戦乱期を除き連綿として平成5年の第61回遷宮まで続いてきた。62回式年遷宮は平成25年に当たり、本年平成17年から本格的準備が始まる。
御杣山は木曽のヒノキ林という印象が強いが、木曽ヒノキを使いはじめたのは中世以降で、木曽は寛政10年(1798)に初めて正式の御杣山になったものである。御杣山の歴史については木村政生氏の「神宮御杣山の変遷に関する研究」(2001)が詳しい。これによると、当初は遷宮用材は現在の宮域内で賄われていたが、次第に伊勢近傍の宮川を上流へ伐り進んでいったという。用材の調達先は更に伊勢、三河、美濃の各地に広がり、南北朝時代に裏木曽に及んだ。その後伊勢と木曽・裏木曽の間を行きつ戻りつし、寛政10年に木曽山が正式の御杣山となり現在に至っている。木曽山は明治22年御料林に編入され約8、000haが「神宮備林」として経営されてきたが、昭和22年の林政統一により廃止されたため60回(昭和48年)、61回(平成5年)の用材は木曽・裏木曽の国有林から購入した。
このようにして遠隔の地にまでヒノキの良材を求めてきたが、一方、宮域林の奥山一帯は江戸時代から地元地域の薪炭供給林の性格を持つに至り、長い間の薪炭材乱伐のため五十鈴川は明治時代から時々氾濫した。大正7年の大洪水を契機に、神宮司庁内に林学者を中心に「神地保護調査委員会」が設置され、大正末にかけ森林経営計画がつくられ、次いで施業案が編成された。このときの基本方針はおおむね現在も同様で、神域を除く宮域林約5、500haを、第一宮域林(天然林)約1、100ha、第二宮域林約4、400haに分け、後者のうち約3、000haの普通施業地で遷宮用材生産の施業を行っている。
宮域林のヒノキ造林が組織的に始まったのは明治18年からであるというが、多くの造林は大正末の経営計画以降であり、昭和27年から始まった大日本山林会会員の奉仕造林の約500haを含め、ヒノキ造林地は約2、900haに達している。私は昨平成16年12月の第50回伊勢神宮新穀感謝祭に招かれた折に、神宮司庁営林部の金田部長のご案内で、長い間の念願であったこのヒノキ林の一部を見学できた。限られた時間ではあるが、話に聞く長期施業林の姿を垣間見(かきまみ)ることができ、林業技術者の端くれとして感激一入(ひとしお)のものがあった。
この用材林の基本目標は、200年で平均胸高直径60cmのヒノキをha当たり100本程度としているが、採材の主体を占める胸高直径60cmの立木を出来る限り短期間に生産するため、形質・成長ともによい木を早い時期に選んで、この木の肥大成長を促す施業を行っている。この木を大樹候補木と称し胸高に二重の白ペンキを、これに次ぐ木は一重ペンキで表示している。このような大樹候補木のha当たり選定本数は、地位等によって50~70本(第一作業級)、10~15本(第二作業級)としている。大樹候補木はさらに肥大成長を促進するため、枝先が触れあう範囲のヒノキを「受光伐」と称する間伐を行い、間伐あとの疎開地にに生える広葉樹のうち有用なものは残すなど生態系の多様化につとめている。
このような長い間の施業の結果、私の見る限りでは、所期の目標に着々と近づいていることが実感できた。これを裏付けるように、収穫祭の昼食時に隣席の北白川大宮司から、次回の式年遷宮には必要材の2割は自給出来そうだと伺い、さもありなんと自得したことである。遷宮ご用材生産という特別な目的をもつ林業とはいえ、此処には森林の持続的管理の原点があると感じた。
2005年1月 小林 富士雄
最近10年間の伊勢神宮農事功労者(林業関係)受賞者一覧
第 回 | 平成 年 | 氏名 | 府県 |
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41 | 7 | 榎本長平 | 和歌山 |
42 | 8 | 駒木一雄 | 岩手 |
43 | 9 | 久米卓一 | 愛媛 |
44 | 10 | 加計慎太郎 | 広島 |
45 | 11 | 岡田丞助 | 徳島 |
46 | 12 | 前田三郎 | 北海道 |
47 | 13 | 斉藤萬祐 | 千葉 |
48 | 14 | 池田俊二郎 | 宮城 |
49 | 15 | 赤堀辰雄 | 鳥取 |
50 | 16 | 巾崎理一 | 長野 |