2004年1月20日
小林 富士雄
原文に写真を添えて会長の新春メッセ-ジに代えます。
新春に相応しく、木の神社として知られる和歌山県の伊太祁曽(いたきそ)神社 を紹介しましょう。この神社は大阪や和歌山の木材界ではよく知れ渡っていますが、他県では「知る人ぞ知る」というと程度の知名度でしょうか。
この神社の宮司さんが伊勢神宮の禰宜(ねぎ)をつとめている頃に偶々知り合い、その縁で昨年末にここを訪ねたものですが、林業界の代表のような歓待をうけ晴れがましい次第でした。宮司の奥重視さんは神官に相応しい風貌ながらまことに気さくな方で、ご子息の禰宜さんも後継にふさわしい方とお見受けしました。
御祭神は素戔嗚尊(すさのおのみこと)を父神とする五十猛命(いたけるのみこと)で、この神は日本書紀に登場します。粗暴の行いのため高天原を追われた素戔嗚尊は新羅国に降り、その折に申されたのが次の有名なお話です。すなわち、髭を抜いて杉、胸毛から檜、尻毛から槙、眉毛を樟となしたとあり、用途として杉と樟は舟、檜は宮、槙は寝棺を作るのによいとされています。この父神に従って多くの木種を携えて降った五十猛命はは新羅を去り、妹の二神とともに日本各地に木種を撒き「青山」(樹木が青々と茂った山、森林)となしたとされます。五十猛命が「木の神」又は「緑化の神」とされる所以です。
五十猛命を祀る神社は全国各地に数多くあります。伊太祁曽神社の案内冊子によると、和歌山県は木の神が鎮座された国というので「木の国」とよばれていたが、奈良時代に勅命により「紀伊国」(きいのくに)になり、これにより当社が紀伊国の祖神(一宮)として朝野の崇敬をうけるようになったとあります。このように当社は紀(木)の国にあり、今も現地の木材業界や林業家に親しまれているということから、いかにも「木の神社」の名に似つかわしいと感じます。このほか、船の材料が木材であることから海運や漁業の人々は船の守り神として、また 五十猛命が大国主命の危難を救ったことから厄よけ神としても信仰されています。
行きはJR和歌山駅で南海電車貴志川線の伊太祁曽駅まで、無人駅の多いのんびりした2両編成の電車にのって15分ほどでした。駅を降りれば誰に聞かなくても神社まで5分もかからず行けます。一の鳥居を過ぎ、二の鳥居をくぐると紅い欄干の太鼓橋の先の石段うえに拝殿があります。私は立派な本殿までご案内頂き、玉串を捧げ林業発展を祈念しました。本殿中央に五十猛命が祀られ、左右脇殿に妹神の大屋津比売命(おおやつひめのみこと)と都麻津比売命(つまつひめのみこと)が祀られ、杉の大木を配し神さびた境内でした。神社敷地は広大とはいえませんがよく整備されており、祭神にちなんだ特色ある行事が催されているということです。帰りはタクシーで和歌山駅まで25分ほどでした。
2004年1月 小林富士雄