2009年11月30日
大貫 仁人
大日本山林会の恒例行事である「現地研修旅行」が平成21年10月21日~23日に行われ、27名の方々に参加して頂き、実りある成果を挙げて無事終了しました。
茨城県林政課、中国木材株式会社、鹿島神宮、千葉森林研究所、千葉森林管理事務所、千葉県森林課、東京大学千葉演習林の皆様に大変お世話になり、ありがとうございました。
元東京大学千葉演習林講師の鈴木誠さんには、この研修会のコーディネータとして道中のご案内を頂き、また、二日目の勉強会でのコメンテータ・話題提供者として活躍して頂きました。御礼を申し上げます。40数年にわたり千葉演習林に勤務された経験から、「千葉の森林・林業」について道中いろいろと有意義なお話をお聞きすることが出来助かりました。また、当会理事の近藤秀明さん(元茨城県林業試験場長、元日本樹木医会会長)には鹿島神宮の樹叢や最古の人工造林についての記述を示す資料を、この研修のために用意して頂き感謝しています。さらに、NPO法人「さんむ環連協」の理事・高橋明美さんをはじとした皆さんに「山里協定」等の様々な活動について現地をご案内頂き有り難うございました。
以下に、スケジュールに従ってご報告します。
(第1日目:10月21日)
集合時間までに全員が揃い大型バスに乗り込み予定どおり東京駅を出発。総勢33名(栃木、群馬、茨城、千葉、東京、神奈川、静岡、愛知、京都、兵庫、鳥取、岡山、高知、山林会5名)で、いよいよ研修旅行がはじまった。
首都高速、そして、東関東自動車道を一路、最初の現地研修地の鹿島臨海工業団地の中国木材(株)鹿島工場へ向かう。時間的にタイトであるため車中で弁当による昼食をとる。車内では、食事をとりながら、会長から参加のお礼、研修の目的・意義・期待等に関する挨拶や事務局からスケジュール等の説明が行われた。
会長の挨拶の中で「視察箇所」についての以下のような簡単な紹介を行った。
①中国木材(株)は、世界有数の総合的な住宅用構造材のメーカです。住宅構造用部材の「乾燥材」ドライ・ビーム、 「集成材」ラミナ・ビーム、国産スギとベイマツを組合せた「異樹種集成材」ハイブリッド・ビーム を製造し、全国8つの物流拠点を使って「原材料確保→製材→乾燥→加工→流通」までの一貫した即納体制で日本全国的な経営展開をしています。
最近(2007年)、欧米材との国際競争に勝ち抜くための世界製材戦略としての物流合理化の新拠点として、また、天災など万一の備えとして、茨城県鹿島臨海工業団地に進出しました。見所は、
- 世界的規模の製材ライン
- 人工乾燥機:50m3換算で200基
- バイオマス専焼の発電所として国内最大規模の「神之池バイオエネルギー(株)」(三菱商事と共同出資)
です。
②鹿島神宮:創建が初代神武天皇即位の年とあり、凡そ2660年ほど前という古い神社で、平安時代の延喜式では、神宮の号をもつお社は、伊勢神宮を除いては、鹿島神宮と香取神宮のみであったということです。
鹿島神宮の御祭神は、武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)で、「古事記」や「日本書紀」には、神代の昔に、天照大御神のご命令で降臨し、出雲の大国主命と話し合いをされ、国譲りを成功裏に導いたことが記されていて、建国功労の神として祀られています。
見所は、大鳥居、楼門、御手洗池(みたらしいけ)、要石、ご神木(杉の大木、樹齢1200年、高さ43m、目通り周囲11m)、樹叢(広大な敷地を覆い隠す神々しい森(天然記念物、広さ70ha(東京ドーム15個分)、1000種を越える植物種)等です。
ところで、当会の理事をされている近藤秀明さんから、是非ともこの機会に皆さんに伝えて頂きたいと預かった資料があります。
わが国の造林事業は室町時代に始まったとされていますが、茨城県における造林についての最も古い記録は、鹿島神宮の社殿改築用材の備林造成であるとのこと。鹿島神宮の20年毎の修造のため、「神宮の近傍に栗5千7百株、スギ34万株を造林したいと中央政府に請願して許可された」と「日本三代実録」の貞観8年の条(866)の文献にあります。ご神木の樹齢が1200年とのこと、年代的にはこの文献と合致しているのかなと思われます。2つめの資料は、鹿島神宮の樹叢の調査報告書(平成8年)のコピーです。近藤さんが皆さんによろしくと申されておりました。
ところで、「鹿島立ち」という言葉がありますが、これは、奈良時代に、九州防備に赴く東国の防人たちが、ここで武運長久を祈願して出立したことによるとのことです。
③2日目の「山武林業」地は、江戸時代の明暦の大火(1657年)と関係しているとのこと、17世紀から18世紀にかけての、江戸の復興と市街の拡張に伴った木材の需要拡大と木材の商品化が、「サンブスギ」という挿し木造林による林業地を形成させたとのことです。これに加えて、九十九里のイワシ漁業のための造船材(スギ)の需要や肥料用の干しイワシ製造のための燃料用材(マツ)の需要が林業地形成を支えたということです。
山武林業の特徴は、
- ①造林と前後した木場作(こばさく)=混農林、
- ②乾燥から守る保護樹としてのマツの先行造林
- ③マツの下木としてのサンブスギの植栽
- ④成林したスギを択抜し、そのあとにスギ・ヒノキの植栽(二段林)
昭和30年代からの拡大造林の進行、その後の木材価格の低迷と林業従事者の高齢化による林業の低迷状況にあり、森林の手入れ不足が著しい。また、サンブスギにおいて感受性の高い「非赤枯れ性溝腐れ病」の蔓延で、森林管理に対して意欲喪失に拍車をかけているとのこと。
このような苦境の中で、山武林業の特徴であるサンブスギの大経材生産に取り組んでいる状況や市民参加の森林造りの活動を視察することになっています。
④3日目の東京大学千葉演習林は、日本初めての演習林です。明治27年に当時助教授であった本田静六先生の尽力により、創設されました。本田静六先生は、当会発行(昨年度復刻)の「明治林業逸史」に当地を選んだ理由、設立に当たって奮闘した様子を述懐しています。
千葉演習林の現状や現在取り組んでいる課題については、『山林』10月号に、当演習林講師の広嶋卓也先生に、この研修のために特別寄稿して頂いた論文が掲載されています(別刷りを配布)。伐期80年の長伐期施業や120年の超長伐期施業など、他では見られない興味ある課題について、実地研修が出来ると思います。
コーディネータの鈴木先生からも、自分の庭のように演習林を熟知されているので、面白いお話を聞くことが出来ると楽しみにしています。
また、千葉演習林では、「わが国林学の鼻祖にして明治林業の創始者」と讃えられ、(社)大日本山林会の創設と発展に寄与して頂いた「松野礀先生」の顕彰碑を詣でることにしています。顕彰碑のことについては、『大日本山林会報』339号(明治44年2月号)のコピーを配布してあります。当山林会との関係については、「松野礀墓地修復と墓碑建立の記録」の小冊子を配布する予定です。これは名誉会長の小林先生を中心として行った事業の記録誌です。松野先生のことについては、道中、小林先生からお話しをお伺いする予定です。
この他にも行程表にありますように、いろいろと勉強させて頂くこと盛り沢山で、楽しみのある有意義な研修旅行となることが期待されます。皆さんと一緒に勉強させて頂きます。
バスは、東関東自動車道の終点、潮来インターを降り、鹿島臨海工業団地へ向かう。15分くらいで最初の見学地、中国木材(株)鹿島工場へ到着した。
(報告(2)へつづく)
平成21年11月 大貫仁人
平成21年度 大日本山林会現地研修会
研修課題 | 世界最先端の木材工場と房総の林業を訪ねて ―中国木材鹿島工場、山武林業と日本最古の大学演習林(東洋大学千葉演習林)― |
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研修場所 | 茨城県神栖市・鹿嶋市、千葉県山武市・鴨川市 |
期間 | 平成21年10月21日~23日の2泊3日 |
行程 | 第1日目 JR東京駅集合・出発(11:00) 中国木材(株)鹿島工場視察(13:00) 鹿島神宮視察(15:30) 勉強会(17:00) 話題提供
宿泊:かんぽの宿潮来 |
第2日目 千葉森林研究所着・視察(10:00) 山武林業(大径材生産林)視察 市民参加の森づくり視察(13:00) 勉強会(17:00) 話題提供
宿泊:勝浦ホテル三日月 | |
第3日目 東京大学千葉演習林視察(9:30~13:30) JR東京駅着・解散(16:30) |