2003年10月12日
小林 富士雄
会員の方々から折に触れて耳にするのは、低迷する林業の現場の話題がほとんどです。とくに会員の主体である中小規模の山林所有者の話を聞くのは身を切られる思いです。話だけでなく、これは私自身も山林会の所有林を視察するたびの実感でもあります。山を歩けば、なんとか手入れされている林がある一方、長い間手が入らず林内が真っ暗な針葉樹造林地や、かつて農用林として利用されながら過疎のため蔦に覆われた広葉樹林など、管理放棄された山地が各地で見られます。
『山林』誌最近号にもこの関連の論文がいくつかあります。中本さんの論説は、日本林業の低迷は円高による国際競争力の低下で説明できるという説得力ある内容ですが(中本利夫:木材産業から見た日本林業『山林』8月号)、これを打開する道を探るために議論の場を提供するのが山林会の重要な仕事と私は思っています。私個人は、林業の経営と国産材の加工流通の体制が両々相まって組織化されることが現状打破のための最大の要件だと信じています。加工流通については、山林会は平成3年から10年まで研究会「国産材加工流通問題を探る」で現地調査を踏まえて提案を行いました(農林水産叢書No.18、23、27、29、31)。林業経営の組織化については、遅まきながらあらためて山林会の研究課題として取り組みたいと考えています。その方向を一言でいうと所有と経営の関係を検討することになります。
この研究会を着手するに当たって重要な示唆を与えてくれるのは藤澤さんの最近の論文です(藤澤秀夫:森林・林業基本法体制下の森林保有構造を考える-団地法人化の提案-『山林』6月号)。藤澤さんの調査によると、団地法人化を期待する森林所有者が4割に達しているということです。とくに小面積森林所有者にとって、林地を放棄するより部分的でも法人の構成員になるのもやむを得ないという切ない気持ちがこの数字に表れています。このように法人化にまでいかなくても、一部の小規模所有者にとって管理経営を完全に委託する方が望ましい場面が増えていると考えられます。とくに公益的機能を重視した循環型社会を指向すべき今の時代にとって、所有と経営の問題は緊急の今日的課題です。
もちろん日本の森林の在りようは時空ともに多様ですから、全国画一の団地法人化などは論外です。農用林として慈しみ利用されている地域では法人化は無縁の論議でありましょう。所有と経営の整理分離のなかには、分収形態、経営委託、信託経営から法人化経営など様々なものが考えられ、いくつかはすでに行政事業に取り上げられてきました。現状では法人化の可能性に取り組むことが山林会の研究課題として適切だと考えた次第です。
山林会では「山林所有・経営問題研究会」(仮称)を近々発足させ、幅広く得失や問題点を整理し、将来に向けての提案をしたいと考えています。とくに経営委託を徹底するならば、所有と経営を完全分離し新たな法人制度の検討を進めなければなりません。もし現行の法制度では困難であるなら「構造改革特区」の適用にまで踏み込んで検討するよりほかないかもしれません。検討すべき課題はいずれHP上に紹介します。しかしながら、組織化の検討ができてもその成否は一に係わって人であると思います。これを実行に移すためには経営感覚の優れた森林管理者がなくてはなりません。この提案に関心を抱きご協力下さる方からのご連絡を切にお待ちする次第です。
2003年10月 小林 富士雄